糖尿病を生活習慣病と言ってしまうことによる悪影響

クリニックが開院し1か月ほどが経ちました。

看板やインターネットなどで多くの方に当院のことを見つけて頂き来院頂きました。

説明の資料をもう少し充実させた方が理解して頂きやすいかなと感じることもありました。病気について理解して頂いたり納得して頂けるように、いろいろ改善していきたいと思っています。せっかく当院に受診頂いた方に、当院に来てよかったと思って頂ける診療を目指していきます。

今回は病気に関する最初の記事ですが、タイトルにある「生活習慣病」という言葉に関してのお話です。

先日当院職員の方と、「生活習慣病」などの多くの言葉がスティグマ(差別、偏見)の原因となっており、学会などでも見直す動きになってきている、という話をする機会がありました。

医療に限らずいろいろな分野でマイナスイメージの言葉を変えていこうという動きをよく聞きますが、「生活習慣病」という言葉に関しては自分でもかなり前から強い違和感を持っていました。

ちょうどよい機会かと思い、これを糖尿病に関する最初のコラムにすることにしました。

そもそも糖尿病は遺伝的な要素なども大きく、生活習慣に問題ない方でもよく起こってしまう病気です。やせた高齢の方が「私は生活に気を付けているつもりなんだけどね・・・・」と悲しそうな顔でおっしゃるのを聞くと、糖尿病が「生活習慣病」と言われ、思われていることで、自責の感情が強くなってしまうのだろうと思っていました。このような方に必要なのは、しっかり食べて体力をつけ適切な薬を使用するということで、生活の改善や食事制限では全くありません。「あなたが悪いわけではありませんよ」、と説明し、少しでも悲しい感情を和らげることを心がけていました。

糖尿病のみでなく、同様に「生活習慣病」と言われる高血圧や高脂血症などでも、生活習慣に大きな問題がなくても病気になってしまう方がかなりいらっしゃいます。

生活習慣に問題がない方に対して「生活習慣病」と言うことは、間違った言葉で精神的な苦痛を与えるという点でかなり罪深いと思います。

では、生活習慣に問題がある方に対してであれば「生活習慣病」と言ってよいか、、、です。

人間は正論で悪い所を指摘されると、素直に受け入れるより、反発を感じてしまうことが多いです。自分でも何が悪いか分かっていて、それをなかなか直すことが出来ない時に、必要なのは正論で責めることではないと思います。何が悪いか分かっていなかった方には適切な情報提供をする、自分で何が悪いか分かっている方にも情報を伝えたうえでどの部分なら無理なく改善していけるかを一緒に考える、これらは医療者として重要な役割だと思いますが、正論で責めても反発を生み、結果、病気の改善につながらないことも多いと思います。

そう考えると、「生活習慣病」という言葉は、生活習慣が病気の原因の方、原因でない方、いずれにおいても、言葉を発した医療者と患者さんの心の距離を遠ざける危険性が高い言葉だと思います。もちろん、人のとらえ方、考え方は様々なので、全ての方に当てはまる訳ではないとは思うのですが。

当院のホームページを作成するときに、「生活習慣病」という言葉は出来る限り使用しないことにしました。代わりに「慢性疾患」という言葉にしています。「慢性疾患」では糖尿病、高血圧、高脂血症などを含めた疾患の総称としてはイメージしづらいのですが、ネガティブな要素も感じないため、そのようにしました。

今後「生活習慣病」という言葉は徐々に使用されなくなっていくと思います。どのような言葉を使用すれば患者さんと信頼関係を築いていくことが出来るかを考え、診療を行っていきたいと思います。